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鳥塚亮さん

危機を乗り越える夢と戦略

いすみ鉄道株式会社 代表取締役社長

出典:鳥塚社長のブログより


鳥塚社長の試み

時代の変化から、ローカル線が何十年も前に建設された当初の運送手段としての使命が終わり、「乗って残そう・・・」だけでは経営は続かず廃止される。
地域ローカル線は40年もの間、その歴史が繰り返され、いくつものローカル線が地図から消えていきました。
いすみ鉄道もその危機にあった中、2009年に社長公募で現在の鳥塚亮社長が就任されました。
鳥塚社長は就任以来「ローカル線が消えれば、その地域自体が衰退していく。ローカル線の当初の使命は終わったけれど、地域のシンボルとしてローカル線は必要で、だからローカル線をブランド化することが必要だ」と繰り返し話されています。

詳細は鳥塚社長のブログに書かれていますので、どうぞお読み下さい。ボリュームがあります。
http://isumi.rail.shop-pro.jp/

今回はこの膨大なブログ記事の中から、
 ・鳥塚社長がいすみ鉄道存続のために具体的にどのようなことをやってきたのか
 ・その中で、現在のいすみ鉄道の目玉となった「キハ52」の導入の経緯
 ・鉄道業界で衝撃を与えた初めての試み「自社養成運転士制度」
について、抜粋いたします。

かつての国鉄で運転されていた「キハ52」ディーゼルカー、その後「キハ28」も導入され、現在はいすみ鉄道の観光資源の重要な柱となっています。
また2010年から始まった「自社養成運転士制度」、700万円払って「運転士になりたいという夢を叶えませんか?」というこの制度は現在も続けられ、2015年もその募集を行っています。
もちろん、この制度で採用された方々は、現在立派な運転士となって毎日列車を運転しています。

いすみ鉄道がローカル線存続のためにやってきたこと

(2014年9月13日のブログ「どうやらパクられたかも。」より)

新しい内閣になって、石破茂さんが、地方創生大臣という新しい部署の大臣におつきになられました。

先週の日曜日にNHKの日曜討論で、石破大臣は、
「経済の再生のためには地方の再生がなければならない。補助金や公共事業も必要だが、それをやってきて地方がこうなっている。地方の潜在力をどう引き出すかが大事だ」
と述べられていましたが、聞いていて私は、驚きました。

私の本をお読みいただいたり、講演をお聞きいただいた皆様でしたらご存じだと思いますが、私は常々、「今まで40年間ローカル線問題はいろいろ解決方法を探ってやってきました。でも、その結果としてローカル線が今こうなっているわけだから、やり方を変えなければならない。沿線地域を含めた可能性を引出し、需要を創造しなければならない。」と申し上げておりますし、ことあるごとにこのブログにも書いているのですが、石破大臣は、私と同じことをおっしゃられたわけです。
つまり、今までのやり方ではだめだ。今までの延長線上に未来はない。ということですが、石破大臣はいすみ鉄道の過去5年間のやり方を見て来られたのでしょうか。
なんだか、石破大臣にパクられた(持っていかれた)ように思います。

日本におけるローカル線問題は過去40年以上の歴史があって、全国的な問題として各地域でいろいろ解決策を探ってきているのですが、未だに解決していません。
ということは、国のトップにいるような偉い人たちがやっていたとしても、そのやり方ではダメなわけですから、私は「今までと違う方法でやりましょうよ。」と申し上げてきたんです。
だから、私がいすみ鉄道の社長に就任してからは、とにかく今までのやり方と違うことをやってきたんです。

1:女性をターゲットにする。
今までのローカル線は男性の趣味嗜好の対象でした。でも、それでだめになってきたのですから、私は男性相手じゃなくて女性をターゲットにすることが必要と考えました。それが5年前に始めたムーミン列車なんです。女性に乗りきていただく、「乗ってみたい。」と思っていただくことが活性化の一歩なんです。

2:訓練費用自己負担養成制度
資格を必要とする職業は、弁護士さんでもお医者さんでも会計士さんでも学校の先生でも、どの職業も自分の時間とお金と能力を使って(つまり学校で勉強して)資格を取得してから就職します。これが日本の常識です。
ところが、鉄道の運転士だけは、会社に入ってから資格を取らせるんです。
交通機関でも、飛行機、バス、船なども会社に入る前に資格を取得する。でも、鉄道だけは違うのです。
そういうやり方でローカル線はダメになったのですから、他の職業の常識と同じように、自分のお金と時間と能力を使って資格を取るシステムを導入したのです。
当初はいろいろ言われましたが、私にとってみれば当たり前のことを当たり前にやっているだけなんですね。ただ、それが今まで行われていなかったというだけなんです。

3:反近代化
日本の鉄道は昔から「動力近代化」の旗印の下で、新しい車両を次々と導入してきました。昔は蒸気機関車を追いかけて田舎の山の中までたくさん人でにぎわっていたのに、「近代化」の名の下にどんどん車両を新しくして、誰も行かなくなってしまったんです。そして、お客様へ良いサービスと思ってやっていたのに、地元のお客様まで乗らなくなってしまいました。だから、私は「近代化」に反していすみ鉄道の観光列車として、わざわざ古い車両(キハ52・キハ28)を持ってきて走らせているのです。近代化でダメになったのですから、それとは逆のことをしているのです。

4:お客様へ「お願いビジネス」をしない。
今までのローカル線は、「お願いしますから乗りに来てください。そうしないと私たちは廃止になってしまいます。」と言ってお客様に来ていただき、来ていただいたお客様に、「グッズを買って増収にご協力ください。」というような「お願いビジネス」をしていたように思います。でも、このやり方だと、ローカル線の職員はまるでbeggarのように思えてしまいますから、一生懸命働いても誇りが持てなくなる。つまり、会社に活力がなくなる。だから、私は乗りたくなるような列車を走らせて、入りたくなるようなショップを作って、買いたくなるような商品の品ぞろえを行っているのです。

5:ローカル線のブランド化
ローカル線の商品は「座席」です。1時間に1本、1両編成の列車が走っているわけですから、販売できる商品である座席数は限られます。つまり、ローカル線の座席は限定商品なのです。
また、ローカル線の座席という商品はお取り寄せもデリバリーもできません。商品が欲しければ、わざわざ買いに来なければならない。乗りに来なければならない商品であって、「買回り品」です。
商品数が限られていて、わざわざ買いに来なければいけないという2つの商品特性を兼ね備えているのがローカル線ですから、私は「ローカル線はブランド化に適している。」と考えて、安売りをしないビジネス展開をしているのです。

6:地域の力を掘り起こす
ローカル線が「お願いビジネス」をするということは、その地域の安売りをしていることになります。でも、ローカル線はどこでもその地域の宝を発掘するツールになりえる。なぜならば、都会の人間はみなさん「ローカル線への憧れ」と持っていて、「乗ってみたいなあ。」「行って見たいなあ。」と思っているわけです。だから旅番組でローカル線をやると必ず視聴率が上がるのです。
そういう都会の人たちの需要にどうやって答えていくかを考えることが、地域の力を掘り起こすということなんです。
でも、その地域に昔から住んでいる人たちには都会の人たちの気持ちがわかりませんから、東京育ちの私は、地域の宝物を都会の人たちに紹介する展開をしているわけです。今日と明日走るいすみ鉄道の「新米列車」などはその良い例で、わずか500円のおにぎり弁当を車内で販売したところで、鉄道としての利益には全く通じないわけですが、ローカル線の情報発信力を発揮して地域の宝物や力をご紹介することは、大事なローカル線の仕事であって、たとえ儲からないことでも一生懸命やらなければならないと考えているのです。

7:取り立ててみるところのない場所を観光地化する
富士山や風光明媚な海岸線、清流流れる渓谷がなければ観光地になれないのでしょうか。いえいえ、そんなことはありません。日本全国、ローカル線が走る地域はたとえ単なる田んぼでも「絵になる」風景です。こういう日本の原風景が都会人が求めているものなのです。だから、そういう何でもない田んぼでも、上手にお見せすることができれば、たくさんの人に来てもらえるわけで、いすみ鉄道のやり方であれば、富士山がなくても海岸線がなくても渓谷がなくても、日本全国の単なる田舎が「絵になる」し、観光地になるということを証明しているのです。

8:田舎での思い出づくり
家族や友達同士で、田舎のローカル線に乗って思い出を作っていただく。そうすれば、その方々にとってのローカル線や車窓からの風景、途中下車して歩いた街並みや食べた料理などが思い出になります。つまり、ローカル線が走る地域全体が思い出になる。そして「ローカル線っていいよなあ。」という思い出を持った子供たちが10年後、20年後に大人になってこの国を支えていくわけです。
そういう地道な活動もやっていかないと、「ローカル線はバスで十分ですよ。」というような大人たちばかりを大量生産してしまいます。そういう大人たちばかりの時代が来ると、この国は新幹線と高速道路と飛行場だけの国になってしまいます。
「ローカル線はお荷物だ。」と考えるということは、その地域そのものも中央から見れば「お荷物」なわけですから、簡単に言えば「田舎はいらない。」という考え方になります。
だから、2040年には900の自治体が消えてなくなるといわれているわけで、もちろん房総半島の市や町も含まれています。

でも、田舎にはそれぞれの良さがあって、その良さは都会の物差しで測ることができない良さなわけですから、「いらない田舎」などないんですね。
ただ、どうやってその土地の宝物を発見し、力を出していくかその方法がわからないんです。

でも、そんな田舎でも、ローカル線が走ってさえいれば、いくらでも勝負に出ることができる。
これが私がいすみ鉄道で実践しているローカル線論なのです。

石破大臣がこの私のやり方をパクったかどうかはさておいて、いよいよこの国も、そういう点に目を向け始めたということは言えそうですから、石破大臣、ぜひいすみ鉄道の例を研究していただき、日本全体を田舎からよくしていきましょう。

ただし、何度も言いますが、すべての田舎が立ち直れるというわけではありません。
せめて、ローカル線を大切にしているところには、そのローカル線の恩恵を受けられるような仕組みづくりをしていただきたいと申し上げているのです。

ああ、今夜は熱く語ってしまいました。

お読みいただきましてありがとうございました。

重要な観光資源となった「キハ52」の導入

(2010年9月10日のブログ「いすみ鉄道の新形式導入について」より)

9月8日の千葉日報で報じられておりますように、いすみ鉄道では現在、新形式車両として、JR西日本の大糸線で活躍しておりましたキハ52型を導入すべく手続きを進めております。

現時点では現車がいついすみ鉄道に来るかなど、全く未定の状況です。

何しろ古い車両のため、この車両導入にはクリアしなければならない問題がたくさんあり、課題が山積している状態です。

車両1つを取ってみても、輸送方法、警備、申請手続き、保安基準のクリア、バリアフリー対策、車両検査、それらに伴う各種書類の準備など、難しい問題だらけです。

また、資金的な問題も大きく、今後、ファンの皆様へ、募金、協賛金などをお願いすることになると思います。

ただ、如何に大きな問題があろうとも、私はいすみ鉄道の社長として、何とかしてこの車両をいすみ鉄道に導入するという強い意志を持っております。

きっと皆様に喜んでいただけると思いますし、いすみ鉄道の業績改善につながると確信しております。
どうぞ皆様、温かい目で応援してくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

なお、正式な時期等につきましては11月以降にプレス発表を行う予定ですので、本件に関しましての弊社及びJR西日本へのお問い合わせは固くお断り申し上げます。
皆様のご協力をお願い申し上げます。

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【社長解説】
なぜ、キハ52なのか。

私が子供のころ、房総半島は気動車(ディーゼルカー)天国と呼ばれていました。
西千葉に関東最大の気動車区(ディーセルカーの車庫)があり、千葉発の普通列車はもちろん、新宿、両国からの房総、総武方面への急行列車はディーゼルカーの列車が長編成を組んで走っていました。

当時の列車は、窓が開く向かい合わせのボックスシートで、冷凍ミカンやお弁当を食べながら汽車旅を楽しんだものです。

私は、いすみ鉄道に観光列車を走らせるにあたり、乗る人みんなが楽しんでいただける「窓が開く向かい合わせのシートでお弁当を食べられる車両」にこだわりました。
ただし、他の鉄道のように観光列車を新造したり、大きな改造をしたりする金銭的な余裕はいすみ鉄道にはありません。
会社の資金的には手も足も出ない状況にあります。

今回のキハ52導入に係る総予算は約3000万円。
1両1億5000万円と言われる新造車両から見れば破格の値段ですが、それでもいすみ鉄道にとっては大きな買い物です。
現時点で、すでに予算が500~600万円ほど不足する状態です。
3000万円という金額は、個人的には大きな金額ですが、鉄道会社が一つのプロジェクトを進めるにあたっての金額としては、大きいとは言えません。
でも、沿線市町がコストをコントロールしているいすみ鉄道には、それだけの資金的余裕もないのです。

私は個人的に付き合いのある銀行に相談しました。
その銀行員も「それだけの金額で、観光の目玉になるような車両を導入できるのですか? 都内に中古マンション1つ買うようなものですよ。」と言われましたが、彼が言う「それだけの金額で」がいすみ鉄道にとっては大きな壁なのです。

でも、私は意を決しました。

なぜなら、今、このチャンスを逃したら、2度と手に入らないからです。

私が日ごろから考えていること、それはお金がなくても幸せになれる方法です。

いすみ鉄道沿線には何もありません。
自然の里山が、渓谷があるだけです。
その中をオンボロのディーゼルカーがガタゴト走る姿。
それを再現することで、皆さんに喜んでいただきたいと考えています。

窓が大きなかっこよい観光列車を走らせることはできません。
出来合いの観光地を作ることもできません。

ただ、昭和の鉄道を再現することは可能です。

キハ52はそのための主役なのです。

1両のディーゼルカーが1日どれだけのお客様を運べるか。
それによる運賃収入はいくらかを計算した場合、会社の業績が飛躍的にアップするというものでもないと思います。
この話を聞きつけてやってくる鉄道ファンも多いでしょうが、過去の事例から見ると10人のうち8人までは、ただ写真を撮るだけで、会社の売り上げにはなんら貢献しないかもしれません。
でも、私はそれでも、いすみ鉄道沿線に観光客が来てくれればよいと思います。
自分のカメラを自慢しながらマイカーでただ鉄道の写真を撮りに来るだけであっても、マナーを守って行動していただければ、私はそれで良いと思います。
(もちろん、記念切符やお土産品を購入していただければありがたいですが)

鉄道が走っているというだけで、シーズンにこだわらず、通年型の観光資源であるということが証明できるからです。
ローカル線があれば、多くの人が幸せになれるということ、そしてそれが路線の存続につながれば、それで良いのです。

私は自分自身が鉄道ファンです。
その1鉄道ファンが鉄道会社の社長にしていただいたのですから、その分、鉄道ファンやローカル線ファンをはじめとする多くの皆さまへ恩返しをしたいと考えているのです。

皆さま、どうぞよろしくお願い申し上げます。

鉄道業界に大きな衝撃を与えた「自社養成運転士」制度

(2010年3月5日及び6日のブログ「自社養成運転士の採用について」より)

昨日、いすみ鉄道の自社養成訓練生募集について発表させていただきました。

詳しい内容は募集要項をご覧いただくこととして、社長としての、この訓練生募集プランのコンセプトをお伝えさせていただきたいと思います。

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かつて、鉄道事業は篤志家と呼ばれる方々が資産を投げ打ってでも将来を見据えて建設資金を出したものです。
いすみ鉄道のお隣の小湊鉄道も安田善次郎の出資を受けて建設されました。
しかしながら今の日本ではそのような企業や篤志家はなかなか見当たりません。そこで、元気な個人の方々に、ご協力いただこうとするものです。
つまり、会社の存続の一助となる「商品プラン」とお考えいただきたいと思います。

ただし、訓練生と言っても、免許を取得させるだけが目的ではなく、免許取得後、継続していすみ鉄道で正規の運転士として乗務していただくことを目的としています。
広く社会人から募集するのですから、勤務日も毎日乗務できるフルタイムの人もいれば、週1度程度の乗務の方も出てくると思います。その点はフレキシブルに対応したいと考えております。(訓練期間中は会社のプランに従って出勤していただきます。)

いすみ鉄道としましては、このプランで外からの資金を呼び込み、会社に体力をつけ、他の会社と同様に新卒者を採用して養成できる会社に1日も早くなるために必要なプランです。

訓練期間中、または正式乗務開始後もいすみ鉄道の乗務を最優先に行っていただく必要がありますので、応募者は、経済的にも時間的にも生活に余裕がある方となります。(例:副業を禁止している会社にお勤めの方などは対象となりません)

今の日本の鉄道では運転士になるためには鉄道会社に入るのが条件です。日本の鉄道会社は一般的に高卒以上20才代までしか人員を採用しません。
たまたま20歳前後の時期に鉄道会社での募集がなかったなど、世の中の事情で他の仕事に就職して社会で活躍を始めてしまうと、日本ではもう、運転士になるチャンスはありません。

私の個人的なことになりますが、昭和50年代、国鉄に入社して新幹線の運転士になるのが夢でした。ところが、当時、国鉄は赤字と合理化、ストライキ、人員削減と、さまざまな問題点を抱え、数年間にわたり新卒採用を停止した時代がありました。
私は、運転士になる夢はかないませんでしたが、それが現在でもパシナ倶楽部の前面展望ビデオ(運転室展望ビデオ)を制作する原動力になっていると思います。

このプランは日本では初めてのことになりますので、運転士になりたいという社会人の皆様にはBIG CHANCEになると思います。

鉄道好きの私が社長になることができたことへの恩返しとして、運転士になりたい希望をお持ちの皆様へ、その道を切り開いたとお考えください。


【発想の原点】

私は航空会社出身の経営者です。航空会社は10数年前から国際的に大変厳しい状況に置かれています。会社は、可能な限り、ありとあらゆることをやってきました。

キャビンクルーも10年ほど前からアルバイトやパートタイマーを採用してきました。
保安要員を正規雇用者にしないということについては1990年代初頭にはいろいろな議論がありました。
当時私は労働組合側の執行役員として、コストダウンを最優先させる会社側と団体交渉を通じてさまざまな協議を重ねてまいりました。
最終的に私が勤務していた会社では、アルバイト(契約)のクルーでも最低保証賃金制度を設定することで決着し、アルバイトクルーがたくさん入社してきました。
そうした経緯の中で予期しなかったのは、アルバイトのクルーの方々がとても一生懸命働くこと。そして、正社員と能力的格差が全くないことでした。
彼らは「自分がクルーになれた喜び」「たとえアルバイトでもクルーとして採用してくれたことに対する感謝」で、正社員への転換制度がないにもかかわらず、とても頼もしい保安要員として、また、素晴らしい接客をしている姿が、今でも印象に残っています。
つまり、この経験から、学んだことは、賃金などを含めた待遇というのは会社と個人との契約の範囲の話で、それによって直接安全性が脅かされることへの相関関係は見当たらないということです。

ご存じない方も多いかも知れませんが、パイロットも派遣社員がたくさんいます。
パイロットを派遣する会社は国外にあります。
日本にいる外人パイロットなどは、こういった会社から契約で派遣されてきている人がほとんどですが、だからといって雇用関係と安全性は直接結び付くものではなく、外人パイロットには、特に日本の局地的な気象の特性(夏の午後、茨城県上空では雷雲が急激に発達し、羽田への進入経路の妨げになるなどといったこと)など、日本独特の環境を訓練で熟知させることにより、現在まで安全な運航が確立されています。

【大事なのは好きなことに打ち込む姿勢】

繰り返しになりますが、このプランは免許を取らせることが目的ではありません。免許取得後、継続して勤務していただくことが条件となります。

好きなことを仕事にすること。それに一生懸命打ち込むこと。そういう過程で「鉄道マン」を育てます。列車を安全に運行するためには、ただ単に免許を取っただけで列車の運転ができるということではなく、円熟した人間性と、鉄道マンとしての考え方、計画性、行動力など、さまざまな能力が求められます。
今まで社会で活躍してきた経験を、いすみ鉄道の乗務員として活かし、さらに広く地域社会に貢献することの尊さを分かち合いませんか。
給料が高いとか、条件が良いとか、そういう段階を卒業された方に来ていただきたいと思います。

いすみ鉄道のような廃止されるかもしれない瀬戸際を歩んでいる鉄道は、労働条件や勤務条件で職員を募ることはできません。でも、地域や社会に貢献するというレベルでは、一般の会社に勤めるより、ずっとやりがいがあります。そういう状況の中で、この世に生を受けたありがたさや、今までの人生に感謝して、これから一緒に皆様方の力を使い、いすみ鉄道で、鉄道の存続という使命を担ってみませんか。


今回の自社養成乗務員訓練生募集にはたくさんの反響をいただきまして、その数が予想以上でたいへん驚いていると同時に、嬉しい思いでいっぱいです。

大別すると賛成派7割、反対派3割といった割合になるようです。

観光鉄道化でお客様に夢を見ていただき、楽しい思い出を提供していくという事業の反面では、並行して現実問題としての存続の可能性を、ありとあらゆる方向から検討し、有効な手段を採用していかなければならないというのが、いすみ鉄道を預かる私に課せられた任務です。
車両の全般検査に1両1800万円近くの費用が必要になるという現実。
検証期間のために新車導入の意思決定が遅れているため、現有車両の負担が増え、平成22年度はその全般検査が2両予定されています。

線路も直さなければなりません。

そういう中で当然「そんなにお金がかかるなら・・・」という廃止論がいつ頭を上げるかわからない状況にあります。

自社養成乗務員プランは、安全性の確保を含めて、当然、国土交通省とも協議を重ね、国交省としても、前例がないという前提に立って、おそらく地方鉄道再生の一つの社会実験的な意味合いを含めて、募集にGOサインをいただいているものです。

昭和60年前後からローカル鉄道が廃止になってきた経緯は皆様もご存じだと思います。それがこの国の「前例」で、北海道の白糠線、美幸線に始まり、鹿児島県の山野線、大隅線など、全国の数え切れないほどのローカル線が消えていきました。

平成22年の世の中を見ると、過疎化、少子化、高齢化、自家用車の普及率、不景気など、昭和60年よりも遥かに状況は悪化しています。

そういう現実を踏まえて、「それでも鉄路を守るんだ!」と私は決意しているのですから、「前例のないこと」をやらなければならないということはご理解いただけると思います。

【いすみ鉄道の乗務員の状況】

現在のいすみ鉄道の乗務員は、2人を除き、すべてJRから来た人たちです。
世間では組合がどうだとか言われていますが、私から見ると、JR出身の運転士は皆さんベテランで、人もよく、会社のことを第一に考え、心配してくれる方々です。
皆、まだ何も知らない私のよきアドバイザーになってくれています。

私も航空会社時代の30代の時に、労組の幹部を6年以上経験していますのでピンと来るのですが、こういう形で乗務員を採用するという話は、組合的には「Job Security」といって、自分たちの雇用が守られなくなる原因になりますから、真っ先に闘争運動の対象になる案件です。
ところが、いすみ鉄道の運転士さんたちは、皆、ニコニコしながら、「社長、俺達は何でも協力するよ!」と賛成してくれています。
「安全性は、俺達がみっちりと教育するから!」と頼もしい限りです。
何しろ40年以上もハンドルを握っているベテランぞろいですから、このまま数年後に退職してしまうには、あまりにももったいない人財なのです。

国鉄からJRになる時に、長年積み上げられてきた技術の伝承がバッサリと切り捨てられて、ズタズタになってしまいましたが、いすみ鉄道では、後輩に、今いる運転士さんたちの技術をしっかり継承させたいというのが、社長である私の考えです。


【今後の乗務員の供給不安】

いすみ鉄道はディーゼルカーです。運転免許は「動力車操縦士、甲種内燃」です。
ところが、今まで運転士さんを供給してくれているJR千葉支社管内では、ディーゼルカーは久留里線だけで、あとの線区は電車です。
昭和40年代に内房線から電化が始まり、徐々にディーゼルカーから電車に変わり、今のJR千葉支社に勤務する40歳代以下の運転士さんは電車の免許しか持っていない人たちばかりの状況です。
今後、JRからディーゼルカーの免許を持った運転士さんで、いすみ鉄道に来ても良いよと言っていただける方を見つけるのは、大変難しい状況なのです。

今のままでいったら、たとえ存続が決まったとしても、数年後には現状のダイヤを維持する要員を確保することができなくなるのです。


【安全性と待遇との関連性は?】

昨日のブログでお話しいたしましたが、航空会社ではこの議論を1990年代初頭からテーマとして、経営側、労働側双方が検証を重ねています。
しかし、鉄道業界では「初耳」の話ですから、鉄道ファンの皆様でも「とんでもない!」「何を考えているんだ!」というご意見をいただくのも理解できます。

かつての重大インシデントは、航空機も鉄道もあらゆる角度から検証されており、私も前職では、管理者として職員を指導する側の立場にありました。
その中で論じられていることは、ヒューマンファクター、つまり人的要因であり、特に、精神面、健康面での安定性に欠けるときにミスや重大インシデントにつながる事象が発生しています。
航空会社でも乗務員のみならず整備士など航空機の運航に携わる職種には、勤務前の十分な休養、飲酒、薬物投与の制限など、厳しく設定されています。
(笑い話になりますが、昔のマニュアルには勤務の前には夫婦げんかもしてはいけないと書かれているものがありました。これは、精神の安定性が確保できなくなるからですが・・・)

それを踏まえて、私がいすみ鉄道に応募してこられる方に要求したいのが「経済的にも時間的にも余裕のある方」ということです。

土日に列車の運転をするのは良いとして、月曜から金曜の夜までビッシリと他の仕事をしているような方は、たとえお金があったとしても、このプランに応募して訓練生に採用されることはないでしょう。なぜなら、乗務前の十分な休養を確保できない「可能性」があるからです。

【金銭的なご負担について】

前例のないことをやっていかなければ、いすみ鉄道は残れないということはご理解いただいているという前提でお話しします。

お金の話は、日本人はあまり好みませんし、ダイレクトにするものではないという風潮がありますが、会社経営という点においては避けては通れません。
観光鉄道でいらしていただいたお客様に「夢を与える」仕事をするためには、我々は現実を直視しなければなりません。

700万円という金額については賛否両論がおありだと思います。
「高い!」という人もいれば「安い!」と思う人もいるでしょう。
個人の状況と考え方、受け止め方によるものだと思います。

私が着目したのは、いすみ鉄道という鉄道施設を「資産」と捉えてみてはどうかということです。

「廃止にしろ!」というご意見は最近ではめっきり少なくなってきましたが、廃止賛成派の方々から見れば、いすみ鉄道の鉄道施設は「負債」です。
走れば走るだけ赤字になるのですから、「負債」というのはもっともなことです。

でも、私は26.8kmの全線を「資産」と考えてみました。

「資産」というのは「財産」です。
「財産」というからにはお金に換えられなければ価値がはっきりしません。

そこで、どうしたらお金に換えられるかを考える必要があるわけです。

いすみ鉄道社内のスタッフも私は「人材」ではなく「人財」、つまり「財産」と考えています。
つぶれそうな会社、赤字の垂れ流しなどと揶揄されながらも、長年にわたってニコニコ頑張ってくれているスタッフは「財産」です。

今、いすみ鉄道沿線で咲き乱れている菜の花ですが、いすみ鉄道のスタッフが、お客様に喜んでいただくためにと、「コストがかかるからやめろ」という当時の経営の意見に逆らって、自分たちで休みの日に手弁当で草刈りをして種をまくところから始めたものです。それがこんなに素晴らしい観光名所になり、他の鉄道から視察に来るようになりましたが、そういう経営側にない先を見る力が、いすみ鉄道のスタッフにはあるのです。乗務員の技術もそうですが、そういう「財産」を、どうしたらお金に換えられるか、と考えるのが私の仕事なのです。

自社養成乗務員養成プランは、そういった考えで生まれました。

「今あるのもをどうしたら活用できるか」ということを考える以外に方法はありません。
各方面の皆様からいろいろとアドバイスのお手紙やメールをいただきますが、人件費も含めた新しい設備投資を必要とする内容がほとんどで、何もないところからどうしていこうかという具体性が伴わないものが多い状況です。
でも、いすみ鉄道ばかりでなく、今の日本の現状は、新しく設備投資をして大きな箱モノを作る余裕はありません。
考え方を変えて、それでも前に進んでいかなくてはならないのです。

私はいすみ鉄道の「資産」を有効活用することで、皆様に「機会(チャンス)」をオファーしたいと考えます。


【目指すは保存鉄道】

イギリスの会社に長くいた関係で、保存鉄道というのをいくつも見てきました。

運転士も整備士も駅員も車掌も、皆ボランティアで楽しそうに、無給で働いています。ところが、残念ながら日本ではこの「保存鉄道」が認められていません。
「鉄道」が「鉄道」であるためには、大都市の私鉄もJRも、いすみ鉄道のようなローカル線も同じ法律が適用されます。「保安基準」などの各種基準も同じであれば、「税法」も「労働法」同じです。

自社養成運転士プランの是非を論ずる前に、私は「鉄道事業」を定める法律が全国画一なのをなぜ論じないのかと思います。

観光鉄道というと保存鉄道の姿が思い浮かびます。

のどかな田園地帯をゆっくりとしたスピードで列車が走り、みんなニコニコして乗っている。お客さんばかりでなく、運転士も車掌も、他のスタッフも、みんなニコニコして乗っているのがイギリスの保存鉄道です。

経営難にあえぐ小私鉄は今後、保存鉄道化していくのも地元の足を守る一つの方法ではないでしょうか。


【JR東海の須田相談役】

昨年、熊本県の人吉でお会いしていろいろとお話をお聞きする機会がありました。
国鉄時代から鉄道一筋で、JR東海の初代社長、その後、会長をされた須田さんは、私から見れば、神様のような方です。

その須田さんが、こう言われました。

「いすみ鉄道は昔の木原線でしょ。あそこは大変だよ! 再生させたら君の銅像が建つよ!」

その時私は、「がんばります!」と答えたものの、内心では「コンチクショー!」と思いました。

今思えば、無知で無謀な後輩を奮い立たせる須田さんの温かな話術だとわかりますが、銅像はともかくとして、日本の鉄道を知りぬいた彼が「大変だよ!」というのだから、今までのやり方では駄目なことは明白です。

須田さんと私の意見が一致するのは、「観光鉄道化」です。
観光地へ向かうために乗る鉄道から、乗ることそのものが観光目的となる鉄道へ。
それが、地方鉄道の再生のポイントであり、観光というのは回遊型を基本とする、というのが須田さんの教えです。

その教えに従って、いすみ鉄道を観光鉄道化し、沿線に様々なポイントを置いて回遊できるようにすること。房総半島に観光にいらしたお客様(もちろん車でも結構です)に、往路と復路で違うコースを通ってもらうために、いすみ市内の内陸部分にある国吉駅に観光スポットを設置してみたのです。

須田さんは、「JR九州は観光列車の先駆者で、とても参考になるよ」とおっしゃられています。私は、長い目で見て、九州がやっているような、SL、トロッコ、国鉄形レトロ車両というスタイルで、いすみ鉄道を観光鉄道化し、次の世代へ継承させたいと考えています。

そのためにも「資産」を有効活用し、活性化させ、銀行が融資してくれるような鉄道会社にしていく必要があるのです。

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いすみ鉄道ファンの皆様、ご声援いただいている皆様へ1つだけわかっていただきたいことがあります。

それは、社長である私が、これだけこの鉄道を想い、この鉄道に真剣に向き合っているということです。
日本の鉄道会社の社長で、ここまで自分の気持ちをぶちまける人が他にいるでしょうか?

おそらくこのブログをお読みの皆様の中の誰よりも、安全性を熟知し、認識していると自負しています。

ただ、申し訳ないのは、お金という現実を述べることで、応援していただいているファンの皆様の「夢」を壊してしまうかもしれないということです。
でも私は、たとえ1%しか存続できる可能性がないとしても、その1%に掛けてみたいのです。
それで、いすみ鉄道が走り続けることができれば、私は幸せです。

※体験者の年代表記は体験当時の年代となります。


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